あらすじ

黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続

『黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続』
毎日新聞出版
1800円(税別)
978-46201-0845-2

江戸は神田にある袋物屋・三島屋は、一風変わった百物語を続けている。
店の奥の「黒白の間」という座敷に一度に一人、または一組の語り手を招き、差し向かいで耳を傾ける聞き手も一人である。そこで語られた話は決して外に漏らされず、
「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」
これをもっとも大切な決め事としている。

そもそもは三島屋の主人・伊兵衛の思いつきで始まったこの変わり百物語だが、これまで聞き手を務めてきた姪のおちかが、この春、めでたく嫁にいったので、次なる聞き手は伊兵衛の次男・富次郎に変わった。
気さくで気がよく旨いもの好き、跡取りではないから「小旦那」と自称する富次郎。
おちかが聞き手だったころに、ふとした縁の導きがあって三島屋に入り、百物語の守り役となったお勝。富次郎が幼いころから三島屋に奉公してきた古参の女中、おしま。
この三人で語り手を迎え、新たな百物語の幕が開く。

もくじ

  • 再会した友が語り始める一家離散の恐ろしい運命(第一話「泣きぼくろ」)
  • 村の女たちが<絶景の丘>に登ってはならない理由(第二話「姑の墓」)
  • 妻子を失った走り飛脚が道中めぐりあう怪異(第三話「同行二人」)
  • 異形の屋敷に迷い込んだ者たちを待つ運命(第四話「黒武御神火御殿」)

怖ろしくも愛おしい
極めつきの怪異と不思議
心揺さぶる江戸怪談、新章突入!

寄稿

『黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続』連載小説を終えて
「語り手」と「聞き手」の巡り会い

 昨年(2018年)の8月1日からちょうど一年間、『黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続』をご愛読いただきまして、まことにありがとうございました。一年間の連載中、体調を崩すことなく、無事に書き通すことができまして、今はほっとしております。

■  ■

 大勢で集って百物語を楽しむのではなく、一度に一人の語り手を迎えて、一人の聞き手がその話に耳を傾ける——この変わった形式の百物語を書き始めたときは、一篇一篇をもっと短く、怪談話の核の部分だけを書き連ねてゆくつもりでおりました。ところが、いざ書き始めてみると、語り手のことはもちろん、聞き手の心中に去来する想いも記したくなり、どんどん長くなってしまいます。

 とりわけこの連載では、第四話の表題作「黒武御神火御殿」が四百字詰め原稿用紙で四百枚近い長尺になり、本当にこれでいいのかと、自分でも書きながらいささかハラハラいたしました。お付き合いを賜りました読者の皆様には感謝の念でいっぱいです。

 この変わり百物語シリーズの二人目の聞き手である三島屋の次男坊・富次郎は、現代では大学四年生ぐらいの若者です。お店の跡取りではなく、怪我をして療養していたこともあり、今はぶらぶら居食いをしている彼は、人生のモラトリアムな時期にいます。この先どのように生きてゆくのか、真剣に考えなければならないことは重々承知の上で、今は変わり百物語の聞き手をすることに熱をあげている。そんな富次郎が自分らしい「聞き捨て」を模索してゆくためには、どんな語り手に巡り会わせればいいのだろう。一年間、そう考えながら書きました。

■  ■

 シリーズの既刊で聞き手を務めていたおちかは嫁入り前の娘でしたので、なかなか書きにくい種類のエピソードがあったのですが、これを富次郎に背負ってもらえて、作者として感謝しているのが第一話の「泣きぼくろ」です。朝刊の連載小説にはふさわしくないネタかもしれないと迷うところもありました。第二話の「姑の墓」では、満開の桜の季節に起こる理不尽な悲劇を描いたので、私自身も何とも複雑な気分で今年のお花見をいたしました。第三話の飛脚が語り手になる「同行二人」では、小説のなかではありますが、飛脚という江戸の職業人の生の声をいくばくかは描写できたのではないかと嬉しく思っております。

 四つのエピソードを通し、藤枝リュウジさんのバラエティー豊かな挿絵から日々新たなエネルギーをもらい、鼓舞していただきました。

 時に迫力満点、時に飄々と、時に妖艶に、時に愛らしく、千変万化する藤枝さんの線は、「語り手の話」としてともすれば一本調子になりがちな私の文章にも彩りを加えてくださいました。この場をお借りして、厚くお礼を申し上げます。

 宮部みゆき

インタビュー

「私の創作の秘密」

 江戸時代の百物語は、今の私たちの「みんなで怖い話を聞く会」である以上に、教養を受け渡す勉強会みたいなものだったそうですね。地方の侍や実力者が集まる会に幕府の間者が潜入して動静を探っていたということもあったそうです。

 この三島屋の変わり百物語は、1度に1人、あるいは1組の語り手を座敷に招いて、聞き手も1人というスタイルです。普通は怪談会の聞き手って、どこまでも透明で盤石なポジションにいると思うんですが、私の場合、話を聞く側が動揺したり、反発したり、あるいは語る人を応援したり、聞き手の存在がとても大きいんですよ。聞き手の側にも、聞く切実な理由があるんじゃないかって思ったんです。

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読者の声

怖くて哀しくて切ない。不思議でやさしい物語。宮部ワールド大好き。

(59歳 女性)

本当に息をつく暇もなく一気に読みました。
最後は悲しくもあり、涙が出ておりました。

(69歳 女性)

『黒武御神火御殿』は凄い発想です。著者会心の題材は読み応えあり。

(80歳 男性)

著者プロフィール

宮部みゆき撮影:塔下智士

宮部みゆき(みやべ・みゆき)

1960年生まれ。東京都出身。東京都立墨田川高校卒業。法律事務所等に勤務の後、1987年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビュー。

1992年 「龍は眠る」で第45回日本推理作家協会賞長編部門、 同年「本所深川ふしぎ草紙」で第13回吉川英治文学新人賞受賞。1993年 「火車」で第六回山本周五郎賞受賞。1997年 「蒲生邸事件」で第18回日本SF大賞受賞。1999年 「理由」で第120回直木賞受賞。2001年 「模倣犯」で毎日出版文化賞特別賞、第5回司馬遼太郎賞、第52回芸術選奨文部科学大臣賞文学部門をそれぞれ受賞。2007年 「名もなき毒」で第41回吉川英治文学賞受賞。2008年 英訳版『BRAVE STORY』でThe Batchelder Award 受賞。著書に『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』(三島屋変調百物語シリーズ)、『さよならの儀式』『昨日がなければ明日もない』『過ぎ去りし王国の城』『悲嘆の門』『英雄の書』など。

宮部みゆき公式ホームページ「大極宮」
http://www.osawa-office.co.jp/

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